5年8ヶ月真剣に付き合った女が、彼氏ではなく「パートナー」を作って学んだ話。⑨
お盆を迎えて数日
私はそのとき本当に情緒不安定が限界突破していた。
35Kg痩せたとはいえ、一般的にはまだ甘く見積もってもぽっちゃり
と言われる部類に入る私は(元が相当だったので)
もう少し痩せたら?と体型のことを言われていたことを思い出し
自分が大事にしてもらえなくなった理由は見た目が原因だと思うようになった。
またわたしはショート丈の服や露出がある服が好きだったので
嫉妬深い彼からいつもミニスカートを履くなとか(体を他の男に見せるなって意味)
言われてたのに無視していた。
そのことから
それを守れば愛されるのではないか。
俗に言う芸能人の泉里香みたいな女になれば愛されるのではないか。と思うようになった。
そう本気でその時は思ったのだ。
今思うと本当に頭がおかしくなっていたのだが相当切羽詰まってたのである。
そこから世にも奇妙な私の泉里香を目指す日々が始まった。
◯自分のことを泉里香だと思い込もうとしたこと
自分が泉里香のような一般受けしそうな美人でスタイルのいい女だったら
一度失いかけた気持ちも戻るのではないか、そう思った私は
自分のことを泉里香だと思い生活するようになる。
周りの友達にも今から私、泉里香になるからと伝え
またもや過激目なダイエットとともに服装を変え、髪の毛とメイクを変えた。
周りの友達はそれを否定しなかった。
今思うと本当に涙が出そうになる位、みんなには感謝の気持ちしか言えない。
誰一人と馬鹿なことしてるなと笑うことはせず応援してくれた。
またあんたは!大事なのはそこじゃないでしょと言いながらも
そこも大事よね。と全否定せず受け止めてくれた。
ラインの登録名まで泉里香にしてくれた子もいた。
この泉里香だと考えて生活する方法は
いたってあほらしいことではあったが一概に悪いことではなかった。
泉里香だったらきっとコンビニでお菓子は食べない。
泉里香だったら筋トレしてマッサージして喉が乾いたら白湯を飲むはず。
泉里香だったら電車に乗った時に一目散に座ろうとしたりしない。
無論勝手な妄想である。泉里香の私生活なんて見たことも聞いたこともない。
だがこの泉里香をつかったいわゆる
《仮定美人法》
は案外自分を整えてくれた。結果的に言うと私はこれで一ヶ月で6キロほど落とした。
だがこの仮定美人法、一つだけデメリットがあった。
仮定美人を目指すことにより自分を必要以上に卑下してしまうことだった。
◯自分を認められなくなったこと
誰かになりきって生活をすることで、いつもの自分と違う所作や心を手に入れられる反面、《私自身だと誰からも大事にされない》そう私はいつからかそう思うようになっていた。
その結果
泉里香なら◯◯するよねとか
泉里香なら◯◯だったのにねとか
この世に本来存在することのない
愛される虚像
を作り出しそれを崇拝し愛される仮定をつくることで
自分を隠し守ろうとしていた。
こない返信、疑わしい行動。気まぐれのようなタイミングでかかってくる電話。
そのたび私は泉里香だったらな〜と言ってごまかした。
本当は辛かった。なんで、と問いただしたかった。
でも泉里香だったらきっとこんなことで問いただしたりしないし、自分の時間として自由に過ごすはず。
だし泉里香だったらきっと、大事にされてたんだろうなあ。
私じゃなかったら良かったのになあ。
そう思って過ごして数週間経った時、
私は友達に相談した。
◯友達が目を覚まさせてくれたこと
その頃私は
彼が実は浮気(といっていいのかわからないけど)をしてたことは
あまり他の友達には言えずにいた。
あんなに私にぞっこんで私も油断しきってたのをみんなが知ってたのに
こんなになってしまったと思われるのが非常に心苦しかったのだ。
自分のプライドも、許せなかった。
そんな中、私は一人の友達に相談した。
彼女は私と一緒で長年付き合ってる彼氏がおり、年数、付き合い方、性格もにているところが多々あったのでとてもそういう面では特別な友人だった。
彼女は最初から私と彼の関係についてあまり好意的ではなかったので
ストレートな意見に少々耳をふさぎたい時や話すのが忍びないなと思った時はあったが
彼女がいつも私のためを思いながらもいつも客観的な立ち位置から
正論を投げかけてくれることは私にとって、一つの道標のようで大切に思っていた。
彼女に意を決して話すと、とても驚いていた。
まさか彼がそんなことをするなんて、そう驚き怒ってくれながらも
私の話をしっかり聞いてくれた。
「そういうことがあってさ、全面的に悪いのはあっちだけどやっぱり私にも
悪い面があってこうなってるとおもうんだよね。切ればいいってのはわかるんだけどさ
勇気が出なくてさ・・・・ばかだよね。私が泉里香だったら彼になんて抱かれてないよねえまあ最初から相手にもしてないか!」
そうやって茶化して私が笑うと彼女は真面目な顔をしてそっと言った。
「あなたが泉里香じゃなくても、あなただって彼に抱かれるような人じゃないよ。」
その瞬間自分の中で我慢していた何かが
一気に崩れる音がした。
「そうだよね、私が泉里香じゃなくたって
私だってそんなことされるような人間じゃないよね」
うん。
彼女は頷いてくれた。
あなたはあなたのいいところがあるよ。
泉里香じゃないかもしれないけど、あなた自身を大切に思ってる人は
いっぱいいるし、思ってくれる人もいるよ。
今でも、その言葉はずっと心に残ってるし
多分一生消えないと思う。
私は私で、泉里香でもなければ、特段の美人ではないかもしれないけど
こんな話を一生懸命きいて、一生懸命伝えてくれて
一生懸命受け入れてくれる人がたくさんいる
それは、自惚れていいなら、《わたし》だったからかもしれない。
そうおもうことができた。
ああ、さよならしよう。
初めてそう思うことができた。
10につづく