抱きしめてトゥナイト

つらつらと、つれづれに。

5年8ヶ月真剣に付き合った女が、彼氏ではなく「パートナー」を作って学んだ話。⑦

 

 

 

 

その後、私は涙がどうにもこうにも止まらず泣きじゃくり

友人Aは手を何度も握りながら辛そうな顔をしてくれた。

彼も私とパートナーがそういう関係であることなんて聞きたくなかっただろう。

顔をしかめたのは、パートナーの不貞を知ってるからだけじゃなかったはずだ。

 

なのに彼はずっとずっと、何も言わず泣き崩れるわたしの手を握っていてくれた。

 

そして

 

「君は、これから先、少しずつ、少しずつでいいから考え方や行動を変えていかないときっと幸せになることはない。だからゆっくり、変わっていこう」

 

と言ってくれた。わたしは何度もうなづくことしかできなかった。

 

 

 

新しくスタートするときに大事な人たちから五円玉をもらうことにしている私は

「五円玉ない?」と聞いたが彼は持っていなかった。なんで?と聞かれたので理由を話すと「それじゃあ、絶対に俺は君に五円玉をあげなければいけない。」と言ってコンビニまで走って五円玉をつくってくれた。油性ペンを買い5円に名前を書いてゆっくりと両手で渡してくれた。

 

彼の使っている電車の終電は無くなっていたが

終電で帰る、という私を駅まで送り届けてくれた。

 

 

彼の旅行のお土産でくれたパックをしながら家でまた泣いた。

わたしは何をしているんだろう。

 

 

友人Aのこの日くれた優しさをわたしは一生忘れないと思った。

そして何よりも、申し訳なさと自分への不甲斐なさが募った。

 

 

 

 

 

 

 

◯改めて一人で考えたこと。

 

 

 

 

 

そこからは自問自答の日々が続いた。ずっと涙は止まらなく、

ご飯を口にすると吐いた。水さえ飲めず、心臓はずっとずっと痛かった。

 

 

 

 

 

 

5年8ヶ月付き合って別れそうになった時に一つだけ

わたしはもう二度と言葉で人を傷つけないと学んだ過去がある。

 

 

ずっと優しく、支えていてくれた彼に私は最後の最後まで優しくすることも、褒めることもできず貶し怒って諭してばかりだったのだ。彼のいつも見ていたいいところを褒めることはなく、たまに見える悪いところだけを責め続けた。

そして別れそうになった時、やっとそのことに気がついたのだった。

私が彼に伝えるために使っていた言葉は正論だったが、それは正しいことではなかった。

 

正論は武器にしてはいけない。一度口から放った言葉が取り消せることはない。

言葉はいつまでも心に刺さって消えないのだ。特に、傷つける言葉だけは。

 

 

 

 

何があっても人を傷つけない、そう決めていた私はパートナーである彼にどう伝えればいいのかどうすればいいのか何を伝えたらいいのかわからなくなっていた。

 

 

正直言うと彼のことは傷つけたかった。私が感じた苦しみ以上の苦しみを一生かけて感じればいいと思ったし、私を思い、悔やんで、慄き、一生忘れなければいいのにと思った。

けどそれをしたら?私は幸せになれるのだろうか。その姿を見た時に私は心から笑えるのだろうか。私がされた苦しみを彼に返したところでそれは

 「彼を傷つけること」であって「私を幸せにするもの」ではない。

もし誰かに傷つけられた時同じことを返したら同じになるから絶対にしてはいけない。

それをしなかったことは自分自身を「正しさ」という武器で守ってくれるから、

そう他人に何度も私は伝えてきた。その事実だけが私を踏みとどまらせた。

 

 

それに本当は今すぐ切ればいいのだ。私は他の人と関係を持ったり私に冷めてしまった時はすぐにいなくなるからね、と言ったよね。と責めてすっぱりと。

 

最善の道なんて考えなくてもわかる。彼をなくしても新しい人ができるに決まってるし半年後にはきっと他のことを思って泣いてる。だから大丈夫だ。そう思えた。

 

 

そう思うことは容易かった。

でもバカな私は彼をすぐに切ることは、どうしてもできなかった。

失うのが怖かったのだ。

 

 

一度なくし、もう二度と手に入らないかもと思い、過ごして

またやっと手にしたありふれた毎日をなくすのが、もう怖かったのだ。

私は大馬鹿で弱かった。もう、本当に誰も失くしたくなかった。

 

 

 

 

 

 友達の私を思う言葉も、友人Aの優しさも気持ちも親の心配そうな顔も

誰かをなくす苦しみを考えれば受け止めることができなかった。

 

 

 

 

 

目をつぶろう、そう思った。

 

 

 

◯それからのこと

 

 

 

 

眠れず、食べられない日々は続いていたが変わらない態度で過ごしていたので

パートナーと私は会うことになった。会ったがやはり私は何も言い出すことができなかった。

彼もいつもと変わらぬ表情だった。ただいつの間にか携帯を手放さなくなっていた。

 

運転中も足の間に携帯が置いてあった。少し動く時は充電器から携帯を抜いてポケットに入れた。驚くべきことにセックスをする時でさえ携帯をあえてズボンのポケットの中につっこんだ。

 

目をつぶり普通に過ごそうと思った私もあまりに耐えられなくなり

「携帯になにがあるの?笑」とつっこんでしまうほどの変貌だった。

(仕事の連絡が来るかもしれないから、と言っていた。たわけ)

 

 

 

が、その日は言い出さないと決めていた私は

 

彼とセックスをした後シャワーを浴び、いつものように彼の全身のマッサージをする。

頼まれたわけではなかったが、もう日課となっていることだった。嬉しそうに笑って初めてされた、という彼が愛おしく始めたことは、いつのまにか当然となっていた。

 

肩を揉み、背中を指圧し、尻と太ももを押す。余すとこなく、少しでも疲れが取れるように。

30分くらいしてだろうか。

みそ汁定食の具は・・・といいながら彼は眠りについた。

どんな定食よ、といいながら私も横になった。 

 

 

 

 

目がさめると正面を向いて抱き合って寝ていた。

背中を向けたり少し距離を置かないと眠ることができない私だが

元彼と、パートナーである彼とだけは後ろからではなく前からハグした状態や

キスするような近さであっても眠ることができた。

それも離れたくないとおもう一つの理由だった。

 

 

 

 

 

 

5センチほどの距離にある寝顔を見つめる。私はこの光景をいつまで見ることができるんだろう、と思った。

なんとも思わなかったはずのお世辞にも綺麗とは言えない寝顔を見て微笑むようになったのはいつだったっけ。

 

目覚ましがなっても起きない彼を抱きしめておはようとつぶやく。

先に体を起こしてベットサイドに腰掛けて早く起きないと遅刻しちゃうよ、といいながらおでこと頭をゆっくりと、ゆっくりと撫でる。撫で続けて5分ほどし、

彼が私の腰に抱きつき顔を擦り付けた。起きたかい、とキスをすると

幸せだ、と彼は呟いた。私はそうだね、と抱きしめた。

こんな尽くしてくれる子そうそういないよと言うと

わかってるよ。と彼は言った。

 

 

私は彼を抱きしめながらどうしようもなく涙をこらえるのに精一杯だった。

 

 

 

 

 

 

 

 ⑧に続く